万座 湯房物語



2008年 05月 15日 ( 1 )


湯房物語(15)


人の来た道

d0137653_16534621.jpg1936年5月15日。

種田山頭火翁が「日進館」に泊まったとの記載があります。

奥の細道で知られる芭蕉が陽ならば、山頭火は正に陰のイメージではないかと思うのですが、どの資料に目をとうしても、行乏の旅であったように思います。

物が豊かな時代では生まれなかったであろう、心の奥から湧き出すような言葉が、現代に棲む私たちの琴線に触れるのでしょうか。。。

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以下は 『山頭火 日記(六) 春陽堂書店』 より引用



d0137653_17143687.jpg5月15日

まことにしづかな道だつた、かつこうもうぐひすもほうじろもよく啼いてくれたが、雪のあるところはすべるし、解けたところはぬかつているし、はふたりころんだり、かなり苦しんだ。
残雪食べたり、見渡したり、雪解けの水音を聴いたり、ぢつと考えこんだり。
山、山、山、うつくしい山、好きな山、歩き慣れない雪の山路には弱つたが、江畔おくるところの杖で大いに助かった、ありがたしありがたし。

<中略>
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やうやく一里あまり下ると、ぷんと谷底から湯の匂ひ、温泉宿らしい屋根が見える、着いたのは三時だった、何と手間取つたことだらう、それだけ愉快だつた。
とりつきの宿-日進館といふ、私にはよすぎる宿に泊まる、一泊二飯で一円。
すべてが古風であることはうれしい、コタツ、ランプ、樋から落ちる湯(膳部がいかにも貧弱なのはやつぱり侘しかつたが)、何よりも熱い湯の湧出量が豊富なのはうれしい。

 ぐんぐん湧きあがる熱湯が湛へて溢れる湯けむりを見よ。

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d0137653_18252958.jpg旅館は並んで二軒、離れて一軒、どれも相当大きい、たゞし今頃は閑散季で、ゆつくりとしづかである。
自炊式であることはよろしい。給仕してくれないのが私には気楽でよろしい。
さつそく洗濯をする、それから髭を剃り爪を切る、さつぱりする、あかるくなる。
だんだん雲つてきた、とかく山国は雨になりがちだ、明日もまた降るかも解らない。
 山国と味噌汁、朝も汁、晩も汁だ、汁はわるくないが、その味噌が臭くて酸つぱいと弱る。
ねむれないので夜ふけてまた入浴、誰もいない薄くらい湯壷にずんぶりひたつて水音に心を澄ます、・・・・・内湯のありがたさ、山の湯のありがたさである、・・・・・よくねむれた。

d0137653_18264628.jpg 万座よいとこ、水があふれて湯があふれて。
 昔風で行き届かないやうな、気のきかないやうな昔ぶりがうれしい。
 遠慮のない、見得を張らないで済む気安さ。
 のんびりとくつろげる。

 苦湯へ下って一浴びしなかつたことは惜しかつた、その豊富な素朴な孤独味を知らなかつた(長野で北光君に教へられて残念がった)。
草津は金持ちと患者とが入湯するところだらう、万座はしづかに体を養ひ気を吐くところである。プロでもブルでも。
古来からの有名さと交通の便利さとが草津を享楽卿とし、また療養地とした、たしかに草津の湯は効く、浴してゐるといかにも効くやうに感じる。
万座は交通の不便で助かつてゐる、草履穿き杖をつかなければ登つて行けないところに万座のよさの一つがある。

d0137653_18455760.jpgこんこんと湧いてなみなみと湛えてそしてどしどし溢れる温泉のあたゝかさ。
この湯宿は案外田舎式であるが、そこによいところ好ましいところがある。ヘマなサービスぶりにもかへつて愛嬌がある。
朝の膳に川魚のカツレツが載せてある、ちようど草津の宿で、夕飯としてカレーライスをどつさり出されたやうなものだ、おかしくもあり、いやでもあり、珍妙々々。
私が温泉を好むのは、いはゆる湯治のためでもなく遊興のためでもない、あふれる熱い湯に浸って、手足をのびのびと伸ばして、とうぜんたる気分になりたいからである。
豊富な熱湯、閑静な空気が何よりだ。

  水音がねむらせないおもひでがそれからそれへ   種田山頭火


山頭火さん・・・・70年経った今でも、お湯を守りながら、へまなサービスぶりのまま、日進館は息をしています。多くのお客様に励まされながら。。。



---湯房物語の続き---

長い休暇を頂き、自分の住む環境がいかに恵まれていたかという事にも感謝しながら年末年始の準備をしていた頃、急激に腹痛を覚え、発熱、下痢、嘔吐。。。こらえきれずに吾妻総合病院に行き看て頂いた。熱が9度2分。立つことも出来ない状況の中で、即入院かと思いきや点滴の後、解熱剤を頂き帰宅。日付は12月29日になっていた。

こんなことでお正月働けるのだろうかと不安になる。それでも起き上がれないのでお薬を飲みながら自宅で休んでいるところに、保健所から「法定伝染病赤痢」です。至急、全館消毒に伺います。との知らせ。目の前が真っ黒と言うか、真っ白と言うか。。。明日は2003年元旦。今日も明日も五百名以上のお客様がお泊り頂いている。全館消毒と言う事になれば、お客様に多大な迷惑をお掛けするどころか、万座温泉全体にも迷惑がかかり大事になるだろう。新築どころの騒ぎではない。賠償金やら保障金が頭の中を駆け巡る・・・

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          旅館業掟破りのカミングアウト 感染症患者届出受理通知書(左) 消毒命令書(右)

色々悔やまれたが、私のせいで「倒産」するのだ。「助けてください!」私には神様に祈るしかなかった。


※この物語は2002年12月~2003年1月の回想物語、過去のお話です。現在ではございませんのでご安心くださいませ。


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by manza_mama | 2008-05-15 21:07 | 湯房物語(11)~(15)


万座温泉・日進舘女将が、湯房建設のエピソードをつづります。
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